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百聞は一見に如かず・第7回
「南青少年活動センター ゴスペル・ナイト」

午後3時から始まったゴスペルの集いに、3つのサークルがすばらしい歌声を披露。ブレス直後一瞬の静寂と、体ごとぶつけるように吐き出される声。皆、それぞれが細心に、かつ荒々しくゴスペルの世界観を綴ります。ゴスペルの産声はあまりに無慈悲でした。ただ、歴史は脈々とその精神を伝え、今この場所でその姿を見せています。
「ここでは『自己実現』の過程として、ボランティアを捉えています」。ユースワーカーの松山さんは、ゆっくりと語られました。「自発的な自己実現を味わってもらいたいです」

自己実現と「居場所づくり」

季刊ボランティア7回目となるボランティア体験記取材。今回は、京都市南青少年活動センターにお邪魔しました。
南活動センターは、もとは勤労青少年のための施設だったそうです。条例が変わり、中高生ら生徒さんたちが使えるようになると、たくさんの人が集まってきました。何か集団で出来るものを、ということで、ゴスペルやヒップホップなどの講座を開き、その講座終了後に、活動サークルが出来たとのこと。ユースワーカーはそれら運営を手伝うことで若者の居場所づくりをサポートしていく。南活動センターでは、この『居場所づくり』をキーワードとして、事業展開を図られています。

ドアを開けて、まず目に飛び込んできたのが制服を着た中高生たち。やはり若い人達ばかり?「今日の参加者は幅広い年齢層の方々ですよ」と松山さん。取材日の8月24日、ちょうど『ゴスペルナイト』というイベントがセンターで行われるのでした。
ゴスペルナイトは、2年前、センターの宣伝をかねて行われました。今回のきっかけは、長谷川君、通称・ハセの『やってみたい!』という意志があったからです。
「去年もこの話をしていたのですが……。今年は時間があったし、やってみたいって!」
ゴスペル・アカペラグループ“LARK”の中心として活躍しているハセ。活動はセンターだけにとどまらず、他の会場でのライブもこなすとか。「ゴスペルを始めたきっかけは、何か音楽をやりたかったから。高校生のとき、部活で吹奏楽をしていたけれど、やめちゃって。でも、音楽を続けたくって。ここでサークルとしてゴスペルをやっているって聞いたから、来てみた。それが始まり」。制服を着ているけれど、現役の高校生?「いや、違いますよ。これは今日の衣装」。制服を着た若者たちは“LARK”のメンバーだったのです。

ハセは現在ハタチ。今日参加するイベントスタッフ側の人間は40人。彼の呼びかけに、3グループが集まったそうです。「みんな知っている顔だから」とハセ。彼が所属する“LARK”、20歳以下のグループ体験を目的とした南活動センターの事業参加者メンバーで構成されている“U-20 Gospel HOT FRIENDS”、センターから独立したグループ“WISH”……「いろんな人の出会いをつくる場、センターをこんな風に捉えています。そして『こんなことを実現させたい』っていう意志を尊重しているんです」と松山さん。今日のゴスペルナイトも、もちろんハセの意志がなければ無かったこと。今日はゴスペルを通じて、参加者を含め80人もの人たちの『居場所』になる……ハセは今日、80人のこころをつなぎました。「居場所づくりについては、『今、この瞬間が居場所』っていう風に考えています。何かを他者と一緒にすると、何か共有感を感じることが出来ますよね。それは価値観であったり、人生観であったり。それを居心地良く感じ合うのが居場所のいち要素ではないでしょうか。居場所づくりを通して、私たちは『何かこういうことをしたいな』ということを援助しています。だから、ボランティアとして来られる方も『センターでこんなことを形にしてみたい』ということを持っていて下さい。むしろこの場所で、ボランティアを媒介として自己実現をして欲しいと思っています」

皆さんとお話しながら

皆さんは、手際よく会場作りを進めます。事前に下準備の方は終わっていたとのこと。瞬く間に1階のロビーがライブステージへ。私は何をするでもなく、様変わりする部屋を眺め、スタッフの皆さんを見つめるだけだったのです。
ゴスペルは、私にとって縁遠い音楽です。『ぼくは、端から端まで裂けた声が欲しい』、アルジェリア武装闘争に身を投じたフランス黒人医師フランツ・ファノンのことば。裂けた声……ゴスペルは、大西洋を渡る奴隷船の中で誕生したと言われています。彷徨する運命にのたうちながら、福音を希求する囚われ者達の声のなまなましさ。今日は、そんな魂を感じるのだろうか……午後1時20分、リハーサルが始まりました。会場の準備を終え、衣装に着替えた皆さんが集まってきます。
おそろいのTシャツに身をくるんだ“WISH”の人たち。このサークルは、ライブハウスや結婚式でも歌声を披露しているとか。じゃあ今日は期待出来ますね、私が言うと、お話をしてくれた木村さんと近藤さんは大笑い。ことさら今日は、皆さんの笑顔が絶えないように感じます。空気が和やかですね。暖かい。隣に腰掛けていた伊藤君も“WISH”のメンバー。パートとして一部リードヴォーカルを担当することもあり、緊張している様子でした。“WISH”としてオリジナルの曲は?「無いです。けれどゴスペルは英語の曲ばかりだから、日本語の曲もあってもいいなぁと思っています」
全員浴衣姿に身を包んだ“U-20 Gospel HOT
FRIENDS”がリハーサルを終え、本番を迎えます。心配ですか?ゴスペル指導のヒロミ先生に声をかけます。「そりゃもう。どうなるやら」。結構、マイナスなカンジ?「言われちゃった……でもね。マイナスなことが多くても、総じてうまくいくと、気持ちとして、いつものプラスの感情以上にall OK!みたいな。そんなカンジです」。「楽しんでいって下さい」、さながら本場のクワイヤーといった感じの“WISH”長谷川さんは、私に笑顔で語りかけてくれました。「イベント最後には全員参加のゴスペルがあります。是非、参加して下さいね」。3時、ゴスペルナイトの幕が上がります。

イベント後半、スタッフと観客、全員参加のゴスペルが始まりました。ヒロミ先生の指揮で、アルト・メゾソプラノ・ソプラノの3つに分けられた観客。簡単な集団練習の後、舞台へ。パート練習を経てはいるものの、壇上に上がると皆、目を泳がせています。
課題曲は『Oh Happy Day』。では、と、腹に響く声で長谷川さん。Yah!!! 皆、声を張り上げる!

Oh, Happy day
When Jesus washed

息をするのが苦しいと感じ、私は少し小さくなりながら歌います。
LaLaLa…LaLaLa… 3つの声が調和していくように感じました。もう後は、気持ちのままに……リピートするたび、声は強くなっていきます。
声に自信など無くガラガラなのに、大声になっていく……身体がドロっと溶け出したかのように、私の魂が躊躇無く外に出ていくように感じる。邪魔な障害が取り払われたなら、当然、総勢80名全ての魂も感じられる!貴重なspiritを逃したくない!私の声を、もっともっと外へ出していきたい!!

He taught me how to wash,
fight and pray
And in rejoicing
Every, everyday

無用な障害を取り払った身体というのは、なんと気持ちの良いこと!いつか『かごの鳥』になってしまった私達。この場にはゴスペルを介して自由を謳歌するような、そんな喜びがあったように思いました。とらわれるべき社会習慣は必要不可欠だけど、生きていくには窮屈なんだ。魂をとき放とう!今ここで、自由になるために。私は、自由を渇望する魂を感じている!!

Happy day!

お子さんと一緒に参加していたお父さんの笑顔といったら……私たちは何かを共に感じ、共に笑いながら、一体になることが出来たのでした。皆さんと笑うことが出来た。私には、それだけでも感動でした。

京都市南青少年活動センターは、いろんな人の出会いをつくる場……松山さんは、このように語ります。『ここに来て何かが変わるわけではないけれど、何かは感じられるかもしれない』。今日、ハセは、参加した皆さんとすばらしい『居場所』づくりを実現させました。ハセと私たち80名は、すばらしき“ボランティア”となったのです。

(大森)


残暑厳しい夏の午後、ゴスペル・ナイトに向う私。ゴスペルを生で聴いたことのない私は、「どんなコンサートなのだろう」と会場に向うバスの中から期待に胸膨らませていました。会場に入ると、沢山の人。色々な年代の方がおられましたが、若い世代(中高生)の方が沢山おられ、開演前からもう楽しげな熱気を感じました。

そして、コンサート。なごやかで肩の凝らない雰囲気の中、コーラスの方々が本当に楽しそう!皆さんの顔に、音楽が、歌を歌うことが好きでたまらない!という表情が溢れているように感じました。聴いている私も「歌うって、こんなに楽しいものなんだ!」とヒシヒシと感じました。コンサートは出演された3つのグループがそれぞれの個性を出して歌われ、盛り上がりの中終わりました。曲にあわせての手拍子も自然に客席から湧いて来ましたね。

が、これで「ゴスペル・ナイト」が終わった訳ではありません。次に「聴くだけでなくみんなで歌おう」という企画。映画「天使にラブ・ソングを2」でも有名な『Oh Happy Day』を先程舞台で素晴らしい歌声を聞かせて下さった皆さんと、聴衆が一緒に歌おう!というものです。

音階を歌って、ソプラノ、メゾソプラノ、アルトのパート分け。私は何とソプラノになりました。その昔、混声合唱でベースをやっていた私としては初のソプラノ。一番上のパートを歌うことが出来る!と一人で密かに喜んでいました。初めて知ったのですがゴスペルって低音の魅力でもあるのですね。また、すごく高い音があまりない(除くソロ)ことは、実際に歌う上でも親しみやすいですね。

さて、パート練習。簡単な自己紹介の後、“U-20 Gospel Hot“
Friends”の皆さんの指導で練習は始まりましたが、皆さん歌が好きな方ばかりで、順調に練習は進みました。

そして、全員がステージに乗っての大合唱。本当に良い気持ちでした。歌って大きな声を出して、普段の疲れやストレスが解消されていく思いでした。カラオケも良いけれど、みんなで歌うと、一人で歌うより更に声が出て良いものですね。もしかしたら、この全体合唱が「ゴスペルナイト」の最大の目玉だったのかも知れません。

本当に楽しかった!そして、スタッフ(コーラス)の皆さんの「歌が好きでたまらない」という輝いた表情に、この南青少年活動センターさんが、本当に若者の皆さんの良き『居場所』となっていると感じました。そして若い皆さんの輝かしいまでのヤング・パワーをヒシヒシと感じ、沢山のパワーをいただきました。本当に楽しい一時をありがとうございました。


☆当日参加されたみなさんの感想をご紹介します!

  • ▽始めの方は歌う気がなかったけれど、やり始めたら楽しくなってきた。最後はとてもよかった。(16歳・男性)
  • ▽クリスマスには参加したいです。(29歳・男性)
  • ▽すっごい楽しかったです。またぜひ参加させてください!ゴスペルナイト万歳。(17歳・女性)
  • ▽久々に大声で歌った。(17歳・女性)
  • ▽みんな楽しそうでした。パワーに圧倒されました。(38歳・女性)
  • ▽こーやってみんなで歌うことははじめてですごくたのしかったです。(29歳・女性)
  • ▽友達に会いに群馬からきました。なにがなんだかわからないまま参加してみたけど、終わってみればいつの間にか私も京都府民の一員にまじれたような気がして本当に楽しい時間をすごせました。今までとはちがった京都の思い出ができました!(22歳・女性)
  • ▽またこういうのがあったら歌いたいです。(17歳・女性)
  • ▽みんなで笑顔で歌うのって気持ちいいですね。(23歳・女性)

参考文献・京都市南青少年活動センター『ゴスペルナイト』冊子
平井玄『引き裂かれた声〜もうひとつの20世紀音楽史』(毎日


京都市南青少年活動センター
主な活動「あそびの広場」、居場所づくり「フリースペース」「ロビープログラム」「喫茶コーナー」
活動時間第1・3土曜日13:30〜17:00/毎週金曜日16:00〜20:00
活動場所南青少年活動センター
住所南区西九条南田朝72
連絡先TEL/FAX(075)671-0356
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