あゆの実習日誌「あゆのつぶやき」
私たちの生活には、様々な情報が溢れている。情報は、耳の聞こえる、聞こえないに関係なく一人一人に伝わるべきものだが、実際は「完全参加と平等」の国際障害者年や国の障害者プラン、全国各地での「福祉の町づくり条例」制度にも関らず、聴覚障害者に対する情報保障は成されていないままである事が多い。よって、私たちは情報に対する認識を深め、保障の方法を知る必要がある。
最近、私は大学生活の中で、特に講義での情報保障を考え始めた。講義は、殆どが先生の話で進められ、テキストなしで先生の説明を聞く講義は少なくない。また、テキストがある時はその内容を易しく噛み砕いた説明や、トピックに関する身近な話を聞いて内容をより良く理解する事が出来る。情報の量や質と、勉強に対する理解度は密接な関係にあり、大切なのは「その情報が学生に伝わっているかどうか」という事だと私自身、数々の講義を受講して感じている。
このような講義中の情報を聴覚障害学生に伝える為に、一定の決まりに従って先生や学生の言葉・周囲の状況などを紙に書いて伝える「ノートテイク」という方法が一般的によく用いられている。実際にテイカー経験者の話によると、テイカーは、集中力や腕の疲れから、2人以上必要であり、友人やボランティアが全ての講義の情報保障を行なうのは困難でる事、専門的内容には専門知識を要する事が問題であると言っていた。この話から、ノートテイクはあくまでも同時通訳であって、その場で情報確認・伝達が出来ないと意味がなく、正確につかんで要約する事が重要だと感じた。情報化により離れた場所からでも情報を伝達出来、手書きに比べ情報伝達量が約3〜4倍にもなるノートパソコンを使った「パソコンノートテイク」という方法が、最近見られるようになった。しかし、この方法にも講義形態により通訳方法を吟味する必要があったり、数式を入力するのが難しかったりなどという問題がある。
又、ゼミなど少人数講義では、発言を求められ意思を述べる時に、素早く対応できる点で「手話通訳」が良いという定評が聴覚障害学生の中であるが、これも手話通訳者の数の少なさに課題を置いている。さらに、情報保障の背景には、手話通訳は比較的早くから制度化が進んできたのに対し、要約筆記は社会的認知が低く、資格制度、公的機関への配慮などはまだ定められていない事がある。
一般大学で学ぶ聴覚障害者の為の情報保障は、まだ整っていないのが現状だ。
聴覚障害者の為のサポート体制を設けている大学で、磁気誘導ループやFM補聴器の貸与といった設備を備えている大学もあるが、まだ普及するには至っていない、身体障害者が入学した場合に国から、国立大学は設備費として、私立大学では私立学校振興・共済事業団に下りる経費補助金として補助を受ける仕組みがある。こうした制度を有効に利用し、一人一人のニーズに合わせた配慮、取り組みを行なっていく事が望まれていると思う。
手話通訳・要約筆記といった人的サービスや機器など様々な資源について触れてきたが、手段を考える前にまず、聴覚障害を理解し、その人がどのようなコミュニケーション手段を望んでいるかを確認して接する配慮の姿勢が大切だ。これを踏まえた上で初めて様々な手段が生き、より良いコミュニケーションが成り立つのだ。さらに、制度面からの支えも重要な鍵を握っていると考えられる。
講義における情報保証体制が整うには多くの課題が残されていて、効率よく通訳をするには専門知識と練習、責任と信頼関係が必要になるだが、聴覚障害者と傾聴者が交流の中で相互に存在を認め合い、尊重し合う事でバリアのない学校を築いていきたいものだ。また、「私にもできるかな」と率先して勉強してみる、そんな雰囲気の学校が増えればと感じている。
<参考文献・資料>
- 「大学ノートテイク入門」
- 吉川あゆみ・太田晴康・広田典子・白澤麻弓 人間社
- 「総合大学における障害学生のあり方の基礎研究」
- 障害学生問題研究会編 多賀出版
立命館大学・4回生・川口亜由美