フリーレポート「ひととの出会いがあったから」
〜中京青少年活動センター主催 フリートーク レポート〜
NPO法人「キャリナビ」代表・平尾ゆかりさん
「キャリナビ」とは=NPO〔非営利組織〕として、活動メンバーの会費と制作メンバーの賛助金等で運営。進路に悩んだり、生き方に疑問を持つ若者が、『ナビゲーター』と呼ばれる“かっこいい大人たち”の生きざまを取材。感じること、考えたことの表現を通じて“自分の生き方”を掴むことを目的とする。主な事業として、ホームページで取材成果を紹介する『お仕事人辞典』、メールマガジンによる活動報告、書籍出版など。またフォーラムなど各種イベントも開催している。
詳しくは・・・
東京都港区六本木4-7-14 みなとNPOハウス TEL(03)3478-7140
ホームページアドレスは http://www.carinavi.org/
出来たばかりの交流施設の一室。『東京からこんな人が来るから、自由に話をしてみよう』という中京青少年活動センターの呼びかけに、11人の若者たちが集まった。「さぁ、始めよう」、センターの先生が声をかける。みんなの顔が引き締まる中で、にっこりと笑顔を見せてくれたのは、今日のゲスト、平尾ゆかりさん(NPO法人「キャリナビ」代表)。「確信すると、誰でも飛べるよ」
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「たまたま友人から『やってみない?』と声をかけられたんです。自分の出来る範囲で実現することってなんだろうって思って始めたのがきっかけ。むしろ、その時、その瞬間で、出来ることをきちんとやっていったら、こんなことになっちゃった。結構、私も驚いています」。NPO法人キャリナビの代表を務めている平尾さん。キャリナビのホームページには、有名無名を問わず、職人、カメラマン、公務員、サラリーマンなど様々な職種の人達をレポートする『お仕事人辞典』がある。これは、現役の学生達が参加するキャリナビ教育プログラムの成果物として、延べ200名以上の“ナビゲーター”と呼ばれる『かっこいい大人たち』を紹介するというもの。インタビュアーを務めるのはもちろん学生達。各々が責任を負いながら取材をこなし、テープをおこし、記事としてまとめる。NPO法人キャリナビの活動目的は、取材を通じて大人の生きざまに触れることで、学生達が具体的な将来像を掴むことだ。
「『自分の進路を決めろ』と言われても、大人との接点のない子ども達は、どんな働き方、生き方があるのかわからない」。日本と海外を行き来する機会の多かった子ども時代。2つの価値観の狭間で戸惑い、悩んだ。「海外では『きみは何がしたいの』と問われることが多くて、『これをやりたい』という主張をしないと相手にされなかった。日本に帰ってくると、まず『これはこうしないとダメ』と言われる。いったい何を価値として置けばいいのか・・・子どものとき、悩み苦しんだんです。結局、私自身も当然どんな生き方があるのかなんてわからず、『これをしたい』なんて言うことが出来なかった」。“素敵な大人との出会い”に、ふと目を留めてしまったのは、こんな幼い頃の原体験があったからだ。「『オンリーワン』という書籍(※マキノ正幸・島田晴雄著『オンリーワン―ひとりひとりが地球上で唯一の個性』・レゾナンス出版)に、ほんの少しだけ書かれていた『夢の実験キャリアナビゲーションシステム』なるものが、キャリナビのきっかけ。子どもが『これをやりたい』って言ったときに、そのプロフェッショナルが夢をかなえるために必要なことを提案してくれるというシステム。小さい頃の経験から、私の中で教育事業というものがずっと引っかかっていたんですよ。そこで、『これは、当たり前だし重要だろ』って言っていたけれど、誰も動かない。こうなると、『これは私がしなければ』と」
これからの進路、指針・・・この場に集まった若者たちは、平尾さんの姿勢を考え、自分の今を振り返る。参加した皆の問いかけに、平尾さんは、人との出会いと責任について語る。「夢とか、そんな浮いた話ではなくて、自分の人生に責任を取れというような厳しい世界観を教えています。『自分の選択は、他でもない自分が決めたことだ』と思うと、誰でも力が出てくる。失敗するか、成功するか、それは私でしかない。その境地に立つと、誰でも“飛ぶ”と思うんです」。平尾さん自身、キャリナビの活動を始めたとき、周囲は猛烈に反対した。親と口をきくことが出来ない状態が続いた。そんな親も、今では支援してくれている。「ここまで出来たって言えることが出来るようになれば、むしろ強力な支援者になってくれる。それは、身をもって経験しています。親とは3年もの長いスパンが掛かりましたけどね。日々の支援者も同じで、『私はこれをやりたいんだ』っていう主張をきちん言えると、凄く支援をしてくれます。ありがたいですね」。反対や批判を突き抜けられたのは、これをやるんだという確信だと言う。「やるんだ!っていうね。あとは、自分自身との戦い」
当日集まった皆さんと平尾さん(後列左から3人目)
他の誰でもない“オンリーワン”という考え方の厳しさ。自分自身を高めなければ、自分らしく“生き残れない”。「もう高められるだけ高めていく。そうしないと生き残れないんですよ。外の枠組みで生活していた方がよっぽど楽なんです。でも、世の中は不況で『外の枠組みはありません』ということになって来ている。結果的に、自分の才能とか、そのあたりを外に出していくって形じゃないと生き残れない、ということは凄くあります。だから、勝ち負けがはっきりしているんですね。厳しいんです。癒し的な『自分らしさ』みたいな言い方をされていると、それは違うだろって思ってしまう」。確信をすること、それは他でもない自分自身なだけに、責任転嫁は出来ない。「でも、自分の尺度で生きていけますから。無理に大きくなる必要なんてないでしょう」。幸せですよ、かみしめるように話す。平尾さんは、それだけ血みどろになった。
支援者や会員から常に強い批判を受ける。受け止めながらも、求める方向性と批判との間にしっかりとラインを引く。自分の人間性を上げて行かなくては、到底、太刀打ち出来ない。自信ある『私』に変わることが出来たのは、人との出会いがあったからだ。「『出会いは人を変える』、これは、私の体験からなんです。他者と出会い、その他者に認めてもらうっていうことは、凄く大きいかなと思います。そういった中で大きな自信が得られると、人は“飛ぶ”んですよ。教育事業の中で、突き抜けていく人間がたくさん出て来る。修了生を見ていて本当に面白いし、ここまで来ると『命をかけてもいいかな』って。こんな気持ちになるまで、徐々に変わっていったという気がします」。自分の思う『やりたい』が『やる必要がある』という確信に変わる、責任を負うことが出来る。この転換が突き抜けられるかどうかの差だと感じているとのこと。「あと、全身で支援して下さる人に会ってしまうと、どんなに難しいことでも『出来ない』なんて言えない。私が『出来ない』って言うことなんて支援者の人からすれば前提なんでしょうね・・・でも『出来るかもしれない』から『きっと出来る』に変わり『必ず出来る』、みたいな。人との出会いがあってこそですね。私はこんなに自信のある人間ではなかった」
「人って変わるんだよ」、車座になって話を聞いていた11人から、疑問は出てこなかった。静かだった。なんとも不思議な沈黙だった。新しい価値に出会えたことに対する、吸い付くような関心のようにも思えた。
重圧なんて思っていない。むしろ、楽しい。平尾さんはそのように話す。「自分がどれだけ楽しめるかっていうのは、NPOなど人の支援を得る活動には重要なこと。私が落ち込むとみんなが引いていく。それはもの凄く感じますね。毎日が挫折。だけど、挫折なんて思わない。うまくいかないと、それだけ燃えてくる。『やってやろう』って。問題なんて起きると、『さぁ、どっから潰していこう』と。本当にね、うまくなんていかないんですよ。出来ないことが出来るようになっていく、その成長の過程こそが楽しい」
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スタッフの中から平尾ゆかりでない『キャリナビ』が生まれつつあるのでは、という問いに、笑いながら、「スタッフは私の自慢」と話す。逆に巧くしめられているなと感じるのだそうだ。 「彼らと一緒に活動出来ることが、一番の幸せだと思っていますね」
(大森)
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