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フリーレポート「スペシャルインタビュー・文字英夫さん」

感じること、それが「やりがい」

そこに飛び込んで解ることがある。
全体を知ることで、初めて姿が見えるんじゃないかな。

文字英夫さん
1937年京都市上京区生まれ
神戸大学経営学部卒業後、シオノギ製薬に入社。
定年後は地域活動に尽力。
西陣市政協力委員会など地域のボランティアコーディネート活動他。

自分自身も楽しいんです

今、関心のあること。それは、1200年の歴史のある京都をたくさんの人に知ってもらうことなんです。「京都史跡ガイドボランティア協会」の一員として、ガイドの仕事をしています。下調べをして資料を作り、コースを決めて案内をします。今年の夏、私達は今まで5年間実施してきたガイド資料を集めて本(「京都残照−まちかどの史跡を訪ねて」)を作りました。せっかく苦労して作った資料を捨ててしまうなんてもったいないでしょう。日本セカンドライフ協会(JASS)でも関西地区運営委員として京都案内の催しをしています。自分自身も勉強になりますし楽しいですね。
あと、現在廃校になった西陣小学校の空き校舎を利用して、『親子ふれあい広場』という活動をしています。私の時代と違って、今の子ども達は公立幼稚園に行かず、遠くの私立幼稚園に通ったりしています。同じ地域に住みながらコミュニケーションが出来ません。地域への関心も生まれないですね。そこで、小学校に入るまでの子ども達を集めてみんなで遊んだりします。そうすると顔見知りになりますから、小学校に上がっても独りにならないでしょう。

時間を掛けて人を見てきた

子どもの頃はまじめな少年だったように思います。勉強もよくしました。私達の年代だけでしょうか?小学校の社会科で『中心学習』なるものがありました。町のこと、お店のこと、生活のこと……10人程度のグループになって一つのことを学びます。面白いのは、学校の教室を使わないことですね。それぞれの家に集まって学習するんです。「今日は、山田さんの家やなぁ」とか、「あそこは上等なお菓子が出てくるなぁ」なんて言い合ったりしながら。これは楽しかったですね。地域への関心が強くなったきっかけです。
自宅から通学出来る範囲で……ということで、神戸の大学に通うようになりました。経営学部でした。卒業後はシオノギ製薬に入社、最初の3年間は京都で営業を担当しましたが、その後は定年まで人事部署を任されました。転勤も無く、自宅からの通勤でした。
シオノギ製薬の人事部は、皆さんの考える人事とはだいぶ異なるかもしれません。採用、教育、給与の他、事務所の土地探しや建設、事務用品の購入や営業マンの自動車の購入……人に関係すること全てが仕事です。社員の適正配置は企業にとって一番大切なことですから、この人は何の仕事に適しているか、全ての側面から見る必要があります。一部分だけ見ていては、人の本質なんて解らないんです。初めから『この仕事』と決めて採用をしていません。時間を掛けながら、人を見るわけです。
定年後は地域の中に入ることを選びました。
この西陣が自分の生まれた町だから……でも一番大きいのは、消防団長をしていた同級生の言葉でした。「お前が安心して大阪の会社で働いてこられたのも、俺らがこの町を守ってきたからや。定年になったら手伝えよ」っていうね。彼の誘いが無かったら、スムーズに地域の中に入ることは出来なかったと思います。やはり、人と人との関係なんですね。あと、退職する少し前に廃校になる西陣小学校の歴史をまとめる作業を手伝ったことも大きかったです。この仕事も、私を地域につないでくれました。


地域活動は住民の絆を深めた。(写真は文字さんが携わった書籍)

全てがつながってくる

私の理想は、おはよう、こんにちはが言える町なんです。しかも「山本さんこんにちは」って名前をつけて言える関係。治安が良くみんなが顔見知り、そんな地域にしたいなぁと。住民が「いい町やなぁ」と思えるためには何をすべきか……これが地域活動コーディネートの面白さ。史跡案内の資料を作ったり、子ども達の集まるイベントを運営したり、こうすることによって地域が一つになるんですね。
地域の中で沢山のことを勉強させていただきました。個性的でバラエティに富んだ人達、その中でコーディネートをするというのは本当に難しい。
難しいです。だから、おもしろい。楽しいから出来るんですね。コーディネートは決して頼まれてする仕事ではないと思っています。自分から一人のボランティアとして活動することが大切なんです。
地域に入っていくために、まず勉強をしていかなくてはいけないと考えました。立命館大学産業社会学部のコーディネーター養成プログラムを受講したのもその一つです。神戸大学経営学部で学んだことは企業社会で役立つ各論でしたから新鮮でした。学園祭に参加してカレーライスを作ったりしましたね。最近のものの考え方を勉強しました。今の学生達って、案外しっかりしてるんですよ(笑)。その他にも、ホームヘルパーの講座を受講してみたり、子どもの病気の応急処置を学んだり……そこに飛び込んで実感してくるんです。生身を感じてくること。これが、やりがいじゃないかな。自分も活性化して相手も楽しく、これがコーディネートだと思います。
実感したことを他の場所で活かしたり、話したり。様々ことを体験して、学ぶ。全てのことがつながってくるように思っています。例えば、たくさんの資格制度がありますね。資格だけ持っていては駄目なんです。仕事の深みは生まれません。人の見方も同じで、一つの物事だけで判断するなんて大間違い。そのような視線を培ってきたのが企業社会の40年でした。このことは、地域社会で少しでも活かされているのではと思っています。
これからの仕事。それは、私達より10年下の仲間を育て、引継ぎをすることですね。綺麗にバトンタッチ出来るようにしたいと思っています。自分の出来ることを人に渡す。「出来ないからやれ」では駄目なんです。自分がやって、経験して、若い人達に仕事を渡すこと。しっかり引継ぎ出来るシステムを作らなければと思っています。

(大森)

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